アトリエ訪問レポート
アトリエ訪問とは
欧州美術クラブは長きに渡り海外展関連イベントの一環として、文化交流を担う「現地協賛イベント」を企画・開催しています。
中でも人気を博す「アトリエ訪問」は、海外の重鎮作家と我々の間で培われた信頼関係により実現した研修のひとつです。
初めて出会う異国の作家達を自らの“聖地”であり、独創性が生まれる制作現場《アトリエ》へ迎え入れ、惜しみなく教授してくれるアーティスト達。
創作に対する姿勢を学び、芸術を生業とした日々の暮らしを肌で感ずる、これほど稀有な機会は、国際作家として世界を視野に活動を続ける上で、大きな糧となることでしょう....。
ルフォール・ティエリ アトリエ訪問 2019年
2019年10月10日サロン・ドトーヌ19 現地協賛イベント参加の日本作家一団は、サロン・ドトーヌ 絵画セクション プレシデント兼会員ルフォール・ティエリのアトリエを訪問した。
祖父は画家、主に19世紀絵画のコレクターだった父、ヴェネツィア音楽団チェロ奏者の叔父など、芸術家系に生まれ育ったルフォール氏は、幼少の頃から絵画に興味をもち、12歳からデッサンを学び始める。若くして父を亡くしたのを機に哲学や宗教学を学ぶ。
中でも仏教の輪廻転生の概念に興味を抱き、25歳の時に初めて中国を訪れた。
時すでに画家になることは決めていたが、初めて訪れた異国の地でチェンという僧侶に出会い、チェン僧侶が嗜む≪書≫と、≪書≫に取り組む様に、画家としての道を歩むことを改めて決断したという。
彼は、工場や廃墟など、人々の暮らしの中に存在しながらも一般的に美しいと認識されていないものをテーマとし、モチーフとして描く。
時間がある時は対象物を探していろいろな場所を歩き回ったりもする。決まった場所を訪れることもあれば、急に興味がわき、引き寄せられるように道端で描くこともある。
つまりは描きたいものを描く。
本能が工場や廃墟を選ぶには、何か理由があるのか尋ねてみた。
すると
「美しいものは放っておいても美しいから。」
と、その端正な顔立ちどおりの返事が戻ってきた。
「ナビ派やフォービズムといったポスト印象主義の潮流は好み。
私自身もかなりの影響を受けた。私の師、ルジューン・フィリップ
氏はナビ派を率いたドニ・モーリス氏の弟子だった。」と続け、「作品制作において、≪コンポジション≫と≪フレーミング≫の2つのポイントに重きをおいている。
無論、独自の色彩を混ぜ込みはするけれど。」と真剣な眼差しを向けた。
彼は現在、小さな美術教室を主宰し、生徒とともに国内外へ研修旅行に出かける。
アメリカでは3ヶ月の長期研修も行なった。パリのアトリエではポートレートやヌードのデッサンを集中的に描くレッスンもする。画家とは違う顔ももち、少林寺拳法は7段の有段者。
過去には10年間、教えていたこともある。
「アートとは全く異なるジャンルのものを平行して学ぶことは、たいへん意義のあること。必ず深奥でつながり、共通点を見出すことができる。」と、格闘技の簡素で直感的な素早い動作が自身の画法に、大きな影響を与えたと語った。
最後に、同志である日本作家の皆様へのメッセージを預かった。
「自身の本能に従い、時に主観的、時に客観的に目前のテーマを描いて欲しい。
時間をつくり、対象物をよく観察する。フィルターをかけず、できる限りのあるがままを描くことが重要である。」
ルフォール・ティエリ
ルフォール・ティエリ LEFORT Thierry
サロン・ドトーヌ 絵画セクション
プレシデント兼会員
1967年生まれ。12歳から絵画に興味を持ち始める
中国でひとりの書道家と出会い、画家になることを決意
8年間フィリップ・ルジュンヌに師事し具象芸術の道にすすむ
今日、パリ近郊複数のアトリエで教室を開く
*ル・サロン「テーラー財団賞」2011年
*ル・サロン「フランス風景賞」2014年ほか受賞多数