アトリエ訪問レポート
アトリエ訪問とは
欧州美術クラブは長きに渡り海外展関連イベントの一環として、文化交流を担う「現地協賛イベント」を企画・開催しています。
中でも人気を博す「アトリエ訪問」は、海外の重鎮作家と我々の間で培われた信頼関係により実現した研修のひとつです。
初めて出会う異国の作家達を自らの“聖地”であり、独創性が生まれる制作現場《アトリエ》へ迎え入れ、惜しみなく教授してくれるアーティスト達。
創作に対する姿勢を学び、芸術を生業とした日々の暮らしを肌で感ずる、これほど稀有な機会は、国際作家として世界を視野に活動を続ける上で、大きな糧となることでしょう....。
エリナ・フォルスティ アトリエ訪問 2019年
2019年5月31日(木)第51回フィンランド美術賞展での現地協賛イベント参加の日本作家一団は、フィンランド アラヤルヴィ市にて活動を続ける画家エリナ・フォルスティ女史のアトリエを訪問した。
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木を活かした建築を得意とするフィンランドの建築家が設計したというアトリエ。壁一面の大きなガラス窓からは、まるで屋外かと思うほどの太陽光が射しこみ、青く広大な空と、どこまでも深い緑が目に映える。2つの天窓を指さしながら、「アートにとって自然光は不可欠。3つの窓から射す、北側からの陽光が制作時の作品を程よく照らしてくれる。ただひとつ、あまりの景観のすばらしさに、大窓を正しい北位置から少しずらさざるを得なかった!」と微笑みながら、フォルスティ女史はアトリエならではの設計裏話を披露してくれた。
彼女のアトリエはアラヤルヴィ市の中心地より少し離れた農村地帯にある。どこまで続くか分からない程広がる畑にポツン、ポツンと穀物庫が点在する。「芸術とは、日々の生活であり、人生すべてだと思っている」と彼女は言う。だからこそ、ヘルシンキで芸術を学んだ後、生まれ育った故郷に戻り住み、共存する風景や建物、空気そのものを描き続けている。「田舎でも移り変わりはある。その移り変わりを、例えば、現存していた穀物庫が朽ち果てるまでの様をとおし、観る人が自身の感性で何かを感じ取り、自由に解釈できるような作品を描きたい。」と彼女は語った。
前述のとおり、彼女のモチーフは暮らしの中に存在する。なので、描きたい対象はすぐに決まるという。それを色彩で表現するには、いつ、どのように捉えるか。どんな配色、彩色になるのか。彼女の作品制作はカラースキームを考えることから始まる。主に油絵具を使うが、小作品などはアクリルや水彩絵具などを用いる。屋外で描く事もある。小作品1点に3~4時間かけるというが、色彩や場景の変化にあわせ、時間、季節、天候などを変え、同じ対象物を何度も何度も描く。場景の変化をまるで写真のように場面、場面で切りとり、描く。異なる時の異なる場景を描くことで、また違う角度から対象を捉えることができる。その違いを色彩で表現することを楽しんでいると語る彼女は、自らをそう呼ぶように、まさに色彩の専門家であり、研究者なのだ。
「夏と冬とでは色の使い方が変わる。夏は、黄、緑、他にも鮮やかな色が自然の中に溢れている。一方、冬には真っ暗な時間が増えるので、色のバリエーションがなくなってしまう。でも、そういう時こそ、明るい色を使いたくなる。≪色≫は楽しさや嬉しさといった感情の表現手段にもなるのだから。」
エリナ・フォルスティ
エリナ・フォルスティ ELINA FÖRSTI
1971年 エヴィヤルヴィ生まれ
1994年 ヘルシンキ芸術デザイン大学にてドローイングと絵画を学ぶ
1998年 ヘルシンキ芸術デザイン大学にてグラフィックアートを研究
2008-2013年 ユヴァスキュラ大学にて美術教育を学ぶ
現在アラヤルヴィ在住