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受賞者インタビュー

第25回日本・フランス現代美術世界展 大賞:藤守 可江
2024年8月8日(木)から18日(日)まで東京・六本木にある国立新美術館3A・3B室にて開催された【第25回日本・フランス現代美術世界展】の大賞受賞インタビューです
2024年第25回日本・フランス現代美術世界展 大賞受賞インタビュー

藤守 可江 「オオイヌタデと白むとき」透明水彩112.0×162.0

インタビュー
この度の大賞受賞について、率直な感想をお聞かせください
今回、「国立新美術館」において私の作品が複数点展示され、多くの方の目に触れるという機会を得られたことは、それだけでとてもありがたいと思っていました。
ましてやこの公募展で最高賞である大賞に選んでいただけるとは思ってもいませんでした。さらにザッキ賞までいただくことができとても感謝に堪えません。
誠にありがとうございました。
  • 会場となった国立新美術館

  • 展示総数526点が集結した

受賞作品「オオイヌタデと白むとき」の制作時に特に工夫された点や気をつけた点があればお聞かせください
特に工夫した点を上げるとしたら、この作品については大きく二つあります。

 一つは、まだ朝霧の残る夜明けの空気感を、色みを少なくして水墨画風に描いたらより一層「白む」という情景を強く表現できるのではと考えたこと。

 二つ目は、画面構成「構図」で、風景型といわれるP型のサイズに水平視線(目の高さの水平線)の位置をどこにするかでした。

オオイヌタデがまだ朝の明けきれない水面から湧き出たかのような神秘さと朝の静寂な湖面の雄大さを残しつつ、その上部の空気感も得られる位置にすること。普段は直感を信じるのですが、この時にはなかなか決めかねずにいました。そこで一般的に安心感と美しさを兼ねたとされる黄金分割(1:1.618)の比を、釣り船とイヌタデ群の水平部分を基準にした上下の比に使ってみました。
これにより水平視線はやや上方になりましたが、それがかえって湖面のボリュ-ム感をしっかりと確保させることができ、全体的に落ち着いた雰囲気になったのではないかと思っています。
透明水彩で絵を描かれることになったきっかけを教えてください
絵は50年位前から油彩を中心に静物画や人物画を描いてきましたが、高校教員定年退職を機に10年くらい前から本格的に透明水彩の絵を主に描いています。

その理由は、以前から職場勤めを終えたら外に出て河川など透明感のある水の風景を多く描きたいという希望があったからです。透明な水を描くなら画材は当然透明水彩だろうというまったく安易な考えだったと思います。透明水彩絵の具が水を描くのに最適かどうかは今でもわかっていませんが、数多く描いてくると、透明水彩絵の具の持つ性質が私にとってとても合っていると感じます。周知の通り透明水彩絵の具は、字のごとく透明色の淡い色合いを出しやすく、しかも紙の質と使い方によってはある程度重厚な絵も描けること。そしてなんといっても水に溶け扱いやすく、乾きが早く、仕上がりまでの時間が短くて済むことだと思います。

また私の場合は、デッサン時の鉛筆線が残ってしまうのがいやで消しながら色づけするとか、他の絵の具より一般的に修正がしにくいので終始緊張感を持って取り組むことになります。そのことが私にとってはとても心地良く、私に合っている画材だと今は感じています。
  • 藤守 可江氏の展示作品

  • エスパス・プリヴェ部門より出品

風景画を多く描かれていますが、これは実際に訪れた場所ですか?どのように描く風景を選ばれたのかを教えて頂ければと思います
自然の中で育ってきた私にとっては、季節の移り変わりや水のある景観はとても魅力的であり絵心がかき立てられる題材で、それらの多くが身近にある場所です。時には良き出会いを求めて遠出もしますが、すべて自分で取材した所です。そこで巡り合った感動や心地よい気持ちなど、心に響く情景をそのまま絵として表現したいという気持ちで取り組んでいます。

私の場合は、ほとんど絵を描く前にタイトルを決めます。
日本には古くからある大和言葉も含め美しい言葉、趣ある言葉が沢山あります。私はそれらのことばをストックしておいて、見ている対象がそれを取り巻く空気感とか自身の体験などを通し、心に響く情景として感じ取ったとき、しかもその情景がストックしておいた言葉と重なったとき、描きたいという思いがとても強くなります。

その思いを持ちつつ制作に向かうわけですが、最初に感じたイメージに絵を近づけていくことは大変難しいと毎回感じます。最初にその場で得られた思いを限られた画面の中で再現する場合、現実をトリミングする時点で制約を受けます。したがって現実と異なっても構図を操作するなど毎回悪戦苦闘しながら取り組んでいます。
今回はエスパス・プリヴェ部門で大きな作品を出品されましたが、作品のサイズを決める時、どのように描き分けているのでしょうか
作品のサイズ「大きさ」の決定は、公募展の場合、その規約の最大とされる大きさを選ぶのが多いです。特に大きなサイズはその大きさだけで見ていただける方に迫力を与えてくれます。ただ、公募展以外の小作品は一般の方がお求めになりやすいF6号以下の作品がほとんどです。
また作品サイズ「縦横の比」(F・P・M・S型)の決定は、主題を何にするか、何を求めるかによって変わってきますが、私の場合F型P型が多く、最近は同じ号数であれば迫力を確保できるS型も使うようになりました。特に大きなサイズは以前使ったものと同じ大きさのものを選びますが、それは額の使い回しができるというのが大きな理由です。
  • ザッキ賞 「静かなるとき」透明水彩80.3×100.0

日々、特に研究や探究を続けていることがあれば教えてください
自分が思い抱いた感情や情景をそのまま平面の絵に表すことは難しく、毎回探究心を持って試行錯誤しながら取り組んでいるところですが、自分に合った画材を見つけ出すことも私が絵を描くことと共に楽しみの一つです。
例えば、絵の具の色の名前が同じでもメーカーが異なると、引き延ばしたときの色の変化や乾燥後の色みや彩度が若干異なるものがあり、この色はこのメーカーのものが自分好みだという発見が楽しいです。また紙は、コットンの水分吸収性がある程度高いものを多く使っています。水分が吸収しにくいものと比較すればマスキング性能がやや落ち、修正しにくいという面はありますが、絵に深みが出て来るのがとても良いと感じています。これもまた今までいろんなものを試してみて感じたところです。
特に新しい画材などが出てくるとすぐに試したくなるのですが、絵の具や紙の質に限らず、筆や画用液など関係する多くの画材の中から調べて、使ってみて自分に合った画材を見つける努力は今後も続けていきたいと思います
新たに挑戦されている作品や挑戦してみたい今後のテーマなどがあればお聞かせください
今まで多くの公募展用に描いてきた題材は、私が以前から魅力を感じてきた水のある風景が多いですが、今後は人物も題材に取り入れてみたいと考えています。ただ、今までの経験から、私は与えられたものを何でもそつがなく描くということが能力的にできないので、“必ずこれを描きたい”という高い意欲を持つことができたもののみを題材にしたいと考えています。特に私が今まで描いてきて感じるのは、この“描きたいという意欲”が高いものほど自分としては良い絵になるような気がしています
普段の制作時間や一日のルーティンなどを教えてください
制作時間は特に決まっているわけでは無く、時間があればできるだけ絵の制作時間に充てます。
職場を定年退職してから、私は実家の農作物、特に稲作栽培(米作り)を手がけています。
絵を描く時間とこの米作りに充てる時間、どちらが多いかを考えてみると遙かに絵筆を持つ時間の方が長いですね。現在絵の取材で外に出る以外は室内で絵筆を持ってコツコツと作業していて、運動不足解消のために直射日光を浴びながら農作業をするという感じですか。

自分のアトリエで絵筆を持って没頭すると一日10時間以上絵と対面しているということは普通です。特に公募展用の絵を手がけていて締め切りが迫っている時など、夜中遅くまで何日も作業することもありますし、全く乗らないと絵筆を持たない日が続くこともあり、一日の作業時間は不規則です。
また、私のアトリエには展示室(ギャラリー)も併設してあり、来館者が来ても制作に追われているときなどは、絵描きの手を止めず作業風景を来館者に見てもらいながら絵の制作を進めるときもあります。
  • 藤守氏のアトリエ

  • 「Gallery可江」

これから日本・フランス現代美術世界展や、海外公募展に挑戦される、または挑戦するか迷っている作家様へ、ご自身の経験を踏まえてメッセージがあればお聞かせください
私は各種の公募展に本格的に出品し始まったのは10年位前からでしたが、絵を描くことを職業とせずとも、自分の生活のリズムの中で楽しみながら絵を描く行為を続けてくると、自然と作品が沢山出来上がってきて、自分の技量をもっと高めようとか、作品をもっと多くの人に見てもらいたいという欲求がわいてきます。そのとき「ル・サロン」を含め海外の人の目にも触れる機会を与えていただいたのが「欧州美術クラブ/JIAS」での公募展でした。特にこの「日本・フランス現代美術世界展」は、日本で開催されるにもかかわらず海外の作家さんと共に展示され、同じ空間で多くの人に見てもらえる場であることはとても貴重なことですし、「国立新美術館」という近代的な大きな美術館で臨場感を味わうことができることも魅力的だと感じています。
今後の抱負や、近年の活動をお聞かせください
約10年前から私の住む福島県川俣町の中山間の地に、入館無料の絵の展示室「Gallery可江」を作り、一般の方に見てもらっています。中にはここで個展をやりたいとの問い合わせもありますが、基本的には私の作品を主に展示しています。この展示室を作ろうと思った切っ掛けは、今まで描いてきた私の絵画作品を常時展示して沢山の方に見てもらいたいと思ったこと。また同時に、高齢化が進んできた中山間の地域において交流人口の増加や活性化とまではいかなくとも、近隣の方がお茶のみがてらに集まり話ができる場所の一つとして、このギャラリーが機能できるのではと思ったからでした。現在では、山間にもかかわらず遠方からの来館者もあり、地区役員会や地区民の方が散歩途中に立ち寄るなど地域にも認識してもらえる場所になっていると感じています。
 その上でこれからの抱負を述べさせてもらうと。感受性が高い子供のうちにこそ絵を鑑賞させる機会を多く持たせることが大切だと感じているので、これからは子供たちにも絵を見てもらう機会を沢山作られればいいなと考えています。
 昔から学校では芸術教科として、楽器を演奏することと共に、絵を描くことを教わっています。これはどうしても得手、不得手があるわけで、私のところに来られる方も「うちの子は絵が下手で」という声を聞くことが少なくありません。当然どんなことでもうまくできるのに越したことはありませんが、私は、絵をうまく描けることを望んでいるわけではありません。単純に目の前の絵を見て何か感じてほしい。「好き、嫌い」でもいいし、「なんかわからないけどこれがいい」、「見ているだけで安心する」など、最初は「何も感じない」でもいいのです。子供たちにはしっかり自分の目で見て「感じる力」その能力を身に付けてほしいと願っています。この能力のことをある人は「鑑賞眼」というのだそうですが、このことは引いては「審美眼」にも通じるものだと思っていますし、山口周がいうリーダーの持つ素質の一つ「美意識を鍛える」ことにも繫がることだと感じています。また、これは1980年代にニューヨークの近代美術館(MoMA)で開発されたとする「対話型絵画鑑賞法」的な考え方かなとも思いますが、私は、単に多くの絵を見て感じ、楽しんでもらう機会を、特に将来を担う日本の子供たちには多く作ってほしいし、自分の行動がその一助になればと考えています。

私自身の作品制作活動においては、今回の「日本・フランス現代美術世界展」で大賞を頂きましたが、それにおごることなく、鑑賞者がしっかりと足を止めて心に何かしら感じてもらえる作品作りをこれからも心掛けていきたいと思っています。
プロフィール 藤守 可江/FUJIMORI Kae
1 福島県在住
2 高校教員定年退職を機に油彩画から水彩画に変更
3 アート展示スペース「Gallery可江」を2015年より福島県川俣町で運営
4 福島県美術家連盟会員、福島県県北美術家連盟理事・事務局
  福島県美術協会幹事、福島県総合美術展委嘱
5 受賞歴
1)福島県内公募
①福島県総合美術展:美術大賞(2016)、県美術賞(2017)
        斎藤清賞2回(2016,2017)、県美術館長賞(2019)

②福島県美術協会展:美術協会賞(2017)、会友特選(2019)
          会員推挙(2023)

2)全国公募・海外公募
①上野の森美術館自然を描く展:優秀賞(2017)
②全国公募ふるさとの風景展:準大賞(2018)
③アートオリンピア:佳作賞(2019)
④ル・サロン:初出品で「Mention」(2020)
⑤日本・フランス現代美術世界展:大賞・ザッキ賞(2024)
  
6 欧州美術関連出品歴(2014年から出品)
  パリ国際サロン・ドローイング版画部門2回、コルシカ美術賞展、
  日本・フランス現代美術世界展で推薦を受けイタリア美術賞展に展示
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