受賞者インタビュー
第34回パリ国際サロン 大賞:瀬野 清
2021年4月22日(木)~25日(日)パリ市3区 エスパス・コミンヌで開催された「第34回パリ国際サロン」大賞の受賞インタビューです。
大賞作品
老木に対し綺麗に咲き誇る花の美しさの対比や、根、幹、花、空、それらの調和に注視し表現しました
第34回パリ国際サロン 大賞:瀬野 清 「老木は生きている」 油彩 92.0×81.6㎝
パリ国際サロン展示風景
受賞者インタビュー 第34回パリ国際サロン 大賞:瀬野 清
- 大賞受賞の感想をお聞かせください
- 入賞報告書をみて大変驚きました。9年前に他界した義理の父(奥様のご尊父)がこの老木の前で子供達が野球をする様子を描いた水墨が、今も玄関に飾ってあるんです。
老木は近所の中学校の野球グランドの片隅に生えていて、道側からもその姿はよく見えます。以前から一度描いてみたいと思っていましたので、複数の出品作より、この「老木は生きている」が選ばれたことでさらに嬉しさが増しました。
- 制作時に特に工夫された点や気をつけた点はありましたか?
- この作品に限ったことではないですが、構図や強調したいところをどのように描くかに重きをおいています。例えば、この木は本来、垂直にたっています。だから最初はそのまま垂直に描きました。でも、私が感じた「そびえたつ」感じや、「威厳」を、その自身のインスピレーションをどのように表現するかを熟慮し、最終的に斜めに描きました。さらに、老木に対し、綺麗に咲き誇る花の美しさの対比や、根、幹、花、空、それらの調和に注視し、表現しました。
- 普段、テーマやモチーフをどのように決めていますか?
- 2016年パリ国際サロンで評論してくださったパトリス・ド・ラ・ぺリエール氏(仏美術雑誌編集長)が、「サッカースタジアム」と「田舎道」という2作品を、「人生の中の劇的な一幕と日常生活の並行性」と評してくださいました。大変嬉しかった。というのもテーマやモチーフは自身の「目で見たもの」と「心に深く刻まれたもの」から得たインスピレーションで決まります。
教師時代にはとにかく時間に拘束されていました。自分にとって時間に拘束される=インスピレーションが生まれない。だから創作活動ができなかった。退職してから農業を始め、今は自宅近くの2反ほどの田んぼでお米を作っている。農作業も自然や天気に拘束されてはいるが、時間による拘束とは全く違う。そこからは閃きが生まれる。わたしにとって農業は絵を描くためにも大切な糧なんです。
- 制作場所や時間など、いつもどのような創作スタイルですか?
- 一年中、朝4時半頃から自宅から5分ぐらいのアトリエで描くのが日課。8時頃には手を止め、その日の成果を分析しながら、次に(明朝)すべき課題をメモにとります。その後、朝食をいただき、9時から午前中いっぱい田んぼに精を出します。もちろん農作業中も閃いたらメモをとります。午後のフリータイムの最中も思いついたらメモをとります。こうやって次の朝までにやるべき事を明確にしておき、作品に向かった時に迷うことなく筆を進められるようにしています。だからメモがすごい量で、収納箱にいっぱい (笑)
もし、迷いが生じたら一旦筆をおいてしまいます。そういう時はダメな時だから。
谷間に咲くキショウブの花
群れて立つ向日葵
- 創作ペースが大変早いように思うのですが。
- 決めているわけじゃないけれど、3回(3日目の朝)でほぼ仕上げる感覚。もちろん細かい微調整は別ですが。4回だとダメかな・・。
6月に入ってから既に11点描いた。今日が22日だから・・(2日で1作品だ!)。
ガ―のある村
- 今後の課題や挑戦したいことなどはありますか?
- ル・サロン、サロン・ドトーヌ、パリ国際サロン、それとJIAS/欧美関係展への出品を続けたいと思っています。ル・サロンとサロン・ドトーヌには違いがあるように感じています。会場もあわせて。ル・サロンは「厳格(を誇示しているよう)」。ドトーヌは「作品のインパクト性」を重要視しているように感じていて、自分にはドトーヌの方が合うのかな。
サロン・ドトーヌに初入選した2013年にはパリの会場に出向きました。当時の会長ノエル・コレ氏にまるで文学のような寸評をいただきました。ドトーヌ展だけでなく、このように作品を評することのできる方がこのサロンに関わっていることに感動しました。そのインスピレーションを大切に出品し続けたいと思っています。これはパリ国際サロンも同様です。
- これを見てくださる方に何かあれば、一言お願いします。
- 以前の受賞者インタビューで「影響を受けた人やアーティストはいますか?」と聞かれました。その際に応えたアーティストに代わりはないですが、今なら特に「北斎」と「雪舟」と返答します。以前とは異なった新鮮な感覚で作品を観る事ができ、勉強になります。
2014年パリ国際サロンで、故 ロジェ・ブイヨ氏(美術評論家)から「彼(瀬野)が題材とし、そして恐らく模範とするのは、新しい局面を迎えた平静のイデアリスムと、生きとし生けるものとの完全なる調和なのである。豊かさ、複雑な精神性、ヒューマニストに通じる魂の高潔さを感じる」と評していただきました。ブイヨ氏が言う『ヒューマニストに通じる魂の高潔さ』は、私にとって日常の四苦八苦であり、悪戦苦闘の姿勢だと思っています。成功例を真似ても上手くいかない。まさに“悪戦苦闘”です。今回のパリ国際サロンでもぺリエール氏に「彼(瀬野)はさらなる自由を手にいれるため、あえて≪学んだことを忘れる≫ことができる」という言葉をいただきました。以前のブイヨ氏から引き継いだかのようなこの言葉は本当に嬉しかったです。
略歴・プロフィール
瀬野 清 SENO Kiyoshi
1949年三重県松阪市生まれ。京都府舞鶴市で中学校美術科教員を務め、2009年退職と同時に制作活動に専念。毎年パリで開催されるドローイング・デッサン・版画コンクールにて09~11年連続で銅賞、金賞を受賞。13年よりフランス公募展サロン・ドトーヌに連続入選。21年で9回目を数える。19年にはル・サロンにて、今後の入賞候補者としてフランス芸術家協会が奨励する作家として「MENTION(メンション)」に選出。15年ベルギー・オランダ美術賞展パリ国際サロン賞、17年イタリア美術賞展準大賞、第18回日本・フランス現代美術世界展大賞受賞、21年第34回パリ国際サロン大賞ほか
叫ぶ子猫
第34回パリ国際サロンムービー